宝石を受け継ぐ

ライブラリ
2018年07月22日
1993年皇太子ご結婚に際し、皇后陛下は皇太子から贈られたルビーの指輪を雅子妃殿下に贈られました。一方英国では、王室の宝石はロンドン塔に展示され ています。エリザベス王妃の戴冠式用に1937年に新調された王冠には、108カラットのインドのゴルコンダのコイヌールダイヤモンドが輝いています。こ れは、1911年にメリー王妃の戴冠式に使われた王冠から取り外してセットされたものです。また世界最大の3106カラットの原石から研磨されたメアリー 王妃の王冠に留められていた、カリナンIII、IVも取り外されてエリザベス女王が使われています。価値の高い宝石は受け継がれ、リモデルされて使われて いるという好例です。宝石を買い求めている間ではなく、十分に所有して次の世代に渡し、リモデルをするようになって初めて、豊かであるといえるのかもしれ ません。日本でも母親から譲ってもらったジュエリーを身につけるのが若い女性のステータスになっていると耳にします。欧米のレベルにはまだほど遠いのです が、いつかそういった時代が到来するでしょう。

古代ローマの彫刻はその素材が金属であったため、溶かされて武器になってしまったと聞きます。そのときそれを模して造った石の彫刻が、現在のバチカン美術 館に展示されています。ジュエリーの場合も、ゴールドやプラチナの金属はリモデルの時にほとんどの場合溶かされて再生されますが、宝石はそのまま生き続け ます。こういった側面からも、宝石の力を感じずにはいられません。

第二次世界大戦中の昭和19年、交易公団で貴金属の強制買い上げが行われました。私の父は日本橋高島屋に持ち込まれるゴールドやプラチナの買い上げに従事 しました。指輪や帯留めに留められているダイヤモンドをはずすのに職人さんが10人ほど配置されるという、かなりのペースでの買い上げだったそうです。貴 金属は強制、宝石は任意買い上げでしたが、贅沢は敵といわれていた時代なので、100人に99人は宝石も売ってしまったそうです。この時、2700円で 買った1カラットの並品が、終戦後昭和23年末には30万円に値上がりしたそうです。

私は父からこの話を聞いた時、これが宝石の資産性だと思いました。人間の作る体制は、どんなに万全を期してもはかないものです。そんな時、人間の作ったす べての仕組みや体制を越えて、宝石は力を持っていると思います。仮に昭和23年にダイヤモンドを売って事業を始めたとしましょう。自分自身のためだけでな く、それが雇用を促進し経済活性の一端を担うこともあるのです。人間が古来、宝石とともに歩んできたのはただ美しい物というだけではなく、こういったこと の繰り返しでもあったのです。



宝石の価値は、本来は受け継がれる時にしかわからないかもしれません。流行によって需要の変化があったり、供給面からの大増産や減産があったりして買った 当時と状況が変化することは考えられます。しかし、それはあまり気にする必要はありません。いくつかの種類をとり混ぜれば平均化するでしょう。大切なの は、どんな品質を選ぶかです。「楽しみ半分、資産半分」を念頭において考えると、ジェムクオリティは楽しみ50資産50、ジュエリークオリティは楽しみ 80資産20、アクセサリークオリティは楽しみ100%となるでしょう。アクセサリークオリティは品質が低く、作りも粗雑で受け継ぐ人がどれだけの価値を 認めるか疑問だからです。ジュエリークオリティの資産20はアイテムによります。時とともに人気の出る品質やデザインであったら、資産30、40と上昇す るかもしれませんが、逆の場合はアクセサリークオリティと同じです。ジェムクオリティは宝石の価値が高いのでリモデルにもかけやすく、必ずしもすべてが 50、50というわけではありませんが、量が限られているので、マーケットが拡大すればするほど稀少性が増すのは確かです。

すばらしいジュエリーを持っている母親は、娘や孫娘に親切にされるといわれます。親切にして、あのすばらしいものを自分にいただきたいという娘や孫の期待 があるからでしょう。豊かになって「食べ物の恨みは恐ろしい」とあまりいわれなくなりましたが、「ジュエリーの恨みは恐ろしい」という時代が来るかもしれ ません。誰に何を譲るかを考えて、クオリティの高い、受け継ぐ人に魅力のあるものを求めるのは楽しいことだと思います。