ジュエリーをただ作ることは比較的簡単ですが、良いジュエリーを作るのは難しいことです。素材の吟味、デザインの練り込み、ていねいで使いやすい作りの三 つの要素の水準がかなり高くないと良いジュエリーは生まれないからです。ここでは、どのような技術が必要とされ、ジュエリーの出来ばえはどこで決まるかを まとめたいと思います。
ジュエリーを作るには、まず素材の調達から始まります。素材が劣っていると、デザインと作りがいくらか良くてもすばらしいジュエリーは生まれません。ちょ うど料理の材料の鮮度の問題と似ています。料理ならば素材が悪いと食べられないか、後から後から腹の調子を悪くします。しかし宝石は、善し悪しに関係なく それなりに商品になって売られてしまうので、わかりにくいものなのです。
次にデザインですが、宝石のデザインはレストランのメニューのようなものです。いろいろとおいしものはあっても、ヘビーかライトか何をそろえるのか選択しなければなりません。宝石は一生のものなので、気品があり、宝石が生かされた飽きのこないデザインが基本です。
そして作りは、宝石がきちんと留められていて爪が布に引っ掛からないかとか、仕上げはていねいかなど、見えないところに手をかけた料理と同じように、高品 質のジュエリーの作りは知れば知るほど奥の深さを感じるものです。そのため加工費用が数十万円、手のかかるものは100万円を超えるものもあるのです。
現在、多くのジュエリーは鋳造法は取り入れられた工業製品です。鋳造法は1960年代から日本でも本格的に普及した技術で、改良に次ぐ改良でその品質は世 界のトップレベルにあります。鋳造法は原型を作ってから同じものを作るので、あらかじめ均質なサイズのそろった宝石を調達できることがポイントです。枠に 合った宝石を選ぶ石合わせという作業が大切で、これがジュエリーの品質を大きく左右するのです。まず物理的にきちんと枠に合ったサイズのものが選ばれた か、次に宝石の品質がそろっていて色の濃淡やカットの差異が最小限に抑えられているのを確認してはじめて、全体のバランスがとれたジュエリーになるので す。また主石(ジュエリーのメインとなる石または1個石の場合もある)の品質では許容範囲のサイズで最小石目方をクリアーしているか、そして美しさが規格 範囲内のものかどうかなどのチェックが必要です。特に主石については、マスターストーンを使って品質を比較検品することが必要です。
第1章のクオリティスケールは、品質の全体像を示すと同時に3つのゾーン、ジェムクオリティ、ジュエリークオリティ、アクセサリークオリティをユーザーに 理解してもらうために作られました。また一方でクオリティスケールは、メーカーの宝石の品質に対するこだわりを感じさせ、どのレベルのジュエリーを作るか の品質規格として使用できます。たとえばルビーの主石の明度を泡目の4Sにするのか、濃いめの6Sにこだわるのかはジュエリーの顔を大きく変えることにな ります。4Sは淡めですがひじょうにさわやかな美しいものになり。6Sを使えば伝統的なルビーらしい高級感のあるものになります。現在のところ6Sのほう が希少性が高く価値も高いと評価されていますが、美しさのみの観点からだと私は4Sのほうが上だと思います。明度6の宝石はモザイクのメリハリがはっきり ついた場合は別にして暗すぎることが多く、明度4でSの宝石は鮮やかな色で美しいものが多いのです。将来は4Sのルビーに、より多くの人々が美しさを感 じ、希少性が増して価値が高くなるかもしれません。
素材の品質と作りのバランスも大切です。素材だけが良くて、デザインや作りが劣っていては良いジュエリーとはいえません。素材の美しさにマッチしたデザイ ンと作りが、良いジュエリーの条件です。素材に特徴があるとか、石留めに特徴があるとかの魅力的なジュエリーも、やはり全体のレベルが一定以上であっては じめてその魅力が映えるのはいうまでもありません。欧米や日本の一流店のホールマークは優れたジュエリーの証であり、伝統と技術がそこに刻み込まれている のを感じます。
一方、ジュエリー生産も他の産業に見られるように発展途上国へ移動しています。しかし人件費の安い国への移動は、ある一定のシェアを占めても限界があると 思います。その理由は、第一に、自動車生産に見られるように、使う人がいる国でデザインと作りの良いものが生まれるということです。第二に、宝石研磨は工 賃が大きな割合を占めるので、人件費の安さが大きなポイントとなりますが、宝石入りジュエリーは素材が原価に占める割合が大きいことです。したがって、た とえば1000ドルのジュエリーに対して工賃の占める割合は200ドルが上限で、800ドルの素材費は世界中どこでもほぼ同じ価格というわけで、200ド ルの部分が1/2、1/5になっても消費地と離れたところで作る諸経費などを考えるとおのずと限界が見えてくるのです。そして商品の価格はともかくとし て、輸入されてからの流通経費は当然、国産品と同じだけかかります。しかしコストの問題よりも、どこで生産されようと50年、100年後にも評価される ジュエリーを作り、そういったものをユーザーが選べる環境を作ることが大切なのです。
